「口約束」で仕事を受けていませんか

「じゃあ、よろしくお願いします」。メールやチャットのやり取りだけで仕事が始まる。フリーランスや一人社長の現場では、よくある光景です。

しかし、契約書なしで仕事を受けるのは、シートベルトなしで高速道路を走るようなものです。事故が起きなければ問題ありませんが、起きたときのダメージは致命的です。

契約書がないと起きるトラブル

トラブル事例 損害の目安
納品後に「イメージと違う」と全額支払い拒否 数十万〜数百万円の未回収
「修正は何回でも無料」と際限なく修正を要求される 時間単価が実質0円に
成果物の著作権を主張され、ポートフォリオに掲載できない 実績として使えない
プロジェクトが突然キャンセルされ、途中までの作業費が支払われない 数週間分の労働が無駄に
契約終了後に競合他社への営業を制限される 半年〜1年間の機会損失

2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」により、発注者側には書面(電磁的記録を含む)での条件明示が義務化されました。法律の後ろ盾もある今、契約書を交わすことは「当然のビジネスマナー」です。


契約書に必ず入れるべき7つの条項

契約書を作成する際、最低限盛り込むべき条項を解説します。

条項1:業務範囲(スコープ)の明確化

最も重要な条項です。「何をやるか」だけでなく、「何をやらないか」を明記します。

悪い例:

甲のWebサイト制作に関する業務一式を行う

改善例:

以下の業務を行う。

  • トップページのデザイン(PC版・スマホ版)
  • 下層ページ5ページのデザイン・コーディング
  • お問い合わせフォームの設置
  • 上記に含まれない業務(ロゴ制作、写真撮影、SEO対策、運用保守)は別途見積もりとする

条項2:報酬と支払い条件

明記すべき項目
報酬総額 金50万円(税別)
支払いスケジュール 着手時50%、納品後50%
支払い方法 銀行振込(振込手数料は甲負担)
支払い期限 請求書受領月の翌月末日
遅延損害金 年14.6%の遅延損害金を加算

一人社長にとって最大のリスクは「やったのに支払われない」ことです。着手金(前払い)を設定することで、このリスクを大幅に軽減できます。

条項3:修正回数の上限

修正回数を明記しないと、永遠に修正を求められるリスクがあります。

修正は2回までを基本料金に含む。3回目以降の修正は1回あたり○万円の追加料金が発生する。

条項4:知的財産権の帰属

成果物の著作権がどちらに帰属するかを明確にします。

  • 著作権を譲渡する場合: 報酬に著作権譲渡費用を含める(相場は制作費の20〜50%増し)
  • 著作権を保持する場合: クライアントには使用権(ライセンス)のみを付与する
  • ポートフォリオ掲載権: 自分の実績として公開できる権利を明記する

条項5:秘密保持(NDA)

業務遂行の過程で知り得た相手方の秘密情報を、第三者に開示・漏洩してはならない。 本条の義務は、本契約終了後2年間存続する。

条項6:契約解除・キャンセル条件

状況 取り決め例
発注者都合のキャンセル 着手金は返金しない。進捗に応じた費用を請求できる
受注者都合のキャンセル 着手金を返金する。ただし実費は精算する
双方合意の中途解約 完了した作業分の対価を精算する

条項7:損害賠償の上限

本契約に関連して生じた損害賠償の総額は、本契約に基づく報酬総額を上限とする。

この条項がないと、成果物に瑕疵があった場合に、報酬を超える巨額の損害賠償を請求されるリスクがあります。


必須 vs あれば安心な条項一覧

条項 必須度 備考
業務範囲 ★★★ 必須 最重要。曖昧さを残さない
報酬・支払い条件 ★★★ 必須 着手金の設定を推奨
修正回数 ★★★ 必須 制作系は特に重要
知的財産権 ★★★ 必須 デザイン・コンテンツ系は特に重要
秘密保持 ★★☆ 推奨 別途NDAを締結するケースも
契約解除 ★★☆ 推奨 トラブル時の出口戦略
損害賠償の上限 ★★☆ 推奨 リスクヘッジに有効
準拠法・管轄裁判所 ★☆☆ あれば安心 紛争時の対応を明確にする
競業避止義務 ★☆☆ 注意 過度な制限は受けない
反社会的勢力の排除 ★☆☆ あれば安心 法人取引では求められることが多い

業種別テンプレートのポイント

Web制作・デザイン

  • 成果物の定義をページ数・画面数で明記する
  • デザインカンプの承認フローを定める(承認後の大幅変更は別料金)
  • 素材(写真・イラスト)の提供責任を明確にする
  • サーバー・ドメインの管理権限を明記する

コンサルティング

  • 成果物(報告書・レポート等)の有無を明記する
  • 相談回数・対応時間の上限を設定する
  • 成果保証をしない旨を明記する(「売上○%アップを保証する」は避ける)

ライティング・コンテンツ制作

  • 文字数の範囲を明記する(例:3,000〜5,000文字)
  • SEOキーワードの指定方法を定める
  • 公開後の修正対応範囲を明記する
  • 署名(バイライン)の有無を確認する

電子契約で契約業務をDX化する

紙の契約書は印刷、押印、郵送、保管のすべてに手間がかかります。電子契約サービスを使えば、契約締結から保管まですべてオンラインで完結します。

電子契約サービスの比較

サービス 無料プラン 月額料金(有料) 特徴
クラウドサイン 月5件まで無料 月額11,000円〜 国内シェアNo.1。弁護士ドットコム運営
GMOサイン 月5件まで無料 月額8,800円〜 GMOグループ。電子証明書付き
freeeサイン 月1件まで無料 月額4,980円〜 freeeユーザーとの親和性が高い
DocuSign 無料トライアルあり 月額$10〜 グローバルスタンダード

月の契約件数が5件以下であれば、クラウドサインまたはGMOサインの無料プランで十分です。詳しい比較は電子契約サービスの選び方クラウドサイン vs GMOサイン 2026年版で解説しています。


よくある質問

Q1. 契約書は自分で作れますか?弁護士に頼むべきですか?

定型的な業務委託契約であれば、テンプレートをベースに自分で作成できます。ただし、高額案件(100万円以上)や複雑な条件がある場合は、弁護士にレビューを依頼することをお勧めします。スポットのリーガルチェックは1〜3万円程度です。

Q2. クライアント側から契約書を提示された場合、何を確認すべきですか?

以下の3点を最優先で確認してください。(1) 業務範囲が曖昧でないか、(2) 知的財産権の帰属(著作権が無条件で譲渡されていないか)、(3) 競業避止義務の範囲が過度でないか。不利な条項があれば、修正を交渉しましょう。

Q3. 契約書なしで始めてしまった案件はどうすればよいですか?

途中からでも契約書を交わすことは可能です。「プロジェクトの進行を円滑にするため」「法改正に対応するため」といった理由で、覚書(追加合意書)を締結しましょう。請求業務の効率化についてはフリーランスの請求書自動化も参考になります。


まとめ:契約書は「自分を守る盾」

  1. すべての案件で契約書を交わす(口約束だけで仕事を受けない)
  2. 業務範囲、報酬、修正回数、知的財産権の4条項は必ず明記する
  3. 着手金(前払い)を設定してキャッシュフローリスクを軽減する
  4. 電子契約サービスで契約業務の手間を最小化する
  5. 高額案件は弁護士のリーガルチェックを受ける

契約書は「相手を信用していない証拠」ではありません。「お互いの認識を揃え、トラブルを未然に防ぐためのツール」です。料金設定の考え方は一人社長の料金戦略も合わせて読んでみてください。


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